超実践バリアフリー住宅事情③
お風呂編~バリアフリーにこだわりすぎて、ばーちゃんが見えていない私であった・・・
高齢の母を引き取って同居する時のために、私達は介助可能な広さと開口部を持った浴室を作りました。そして1年前に母と暮らし始めたのですが、私達の思い通りにはいかず、母はなかなかお風呂に入ってくれません。
一人暮らしができなくなった母は、アルツハイマーを発症しており上肢下肢とも衰えが目立ちました。しかし1年前はまだ介護度も低く、自力で入浴できる状態にあったはず。それに曲がりなりにも、高知で一人暮らしのうちは辛うじて自分で風呂にも入っていたのですが・・・・・
高齢者というのは認知症がなくても新しい環境に適応する事はかなりのストレスになります。ことによると環境の変化が認知症発症のきっかけになったりする・・・特に母の場合、昔から自分の生活習慣を頑なに守るタイプで、全くと言っていいほど新しい環境に順応しません。
加えて大変プライドが高く失敗を極端に恐れるため、使い慣れないものを触るのが不安なのです。お風呂に関しても、シャワーや水栓の使い方を失敗するのを恐れているのですが、別に我が家の水栓、特別なものではないのです。母の自宅についていたものとほとんどかわらないお風呂用のサーモスタット付きシャワー水栓。
同じものでも場所がかわると使えない、まして洗濯機や炊飯器のような電化製品は、機種が変ればもう絶対に使うことができません。また、生活に対する意欲がなくなり、身の回りを小奇麗に保つ事が難しくなる、これらは全て、アルツハイマー患者の特徴のようです。
「お母さん、お風呂にどうぞ」「こんな汚い年寄りは最後でかまん(かまわないの意)」
「お母さん、お風呂にどうぞ」「こんな食べてすぐには入れん」
「お母さん、みんなお風呂に入ったよ。気楽にゆっくりはいってね」
「もう遅い、疲れたから今日はいらん」
家族全員、食後に一服する暇も無く、ゆっくり浸かって疲れを癒すことも我慢して、今日こそはばーちゃんのために!と意気込んで風呂にいれようとした挙句このセリフをのたまわれると、さすがに頭の中が真っ白に・・・
しかし、ばーちゃん、最後に風呂入ったの何時だった?ってくらいですから私の気は焦るのです。
「お母さんはお昼たっぷり時間があるから、ゆっくりお昼にお風呂使ってよ」
「私はすごく冷え性じゃけ寝がけに入らんと風邪を引く」
「お母さん、ウチは家中暖かいから湯冷めはしないよ」
「私はデリケートじゃけどんなに暖こうても湯冷めするき」
こんな会話を繰り返すばかりでちっとも風呂に入ってくれません。要するに理由はなんでもいいんです。入りたくないっていうか、はなっから入る気がない、これもアルツハイマーという病気によるものでしょう。車椅子介助可能なやたらと広い浴室も、余計に母の入る気を削いだかもしれません。
そうこうしているうちに母の身体は衰えを増し、自力で入浴が不可能になりました。
「お母さん、手伝うからお風呂はいろうよ」
「一人でできるからええ」
「お母さん、膝が痛いのなら椅子に入ってお風呂に入ろうよ、洗ってあげるから」
「私はこうしてしゃがまんと体を洗えん!」
そうこうしているうちに、母は一月以上風呂に入らず二月以上洗髪をしませんでした。
そして私は思ったのです。
なにがなんでもディ・サービスを利用するのだ!
かくして12年前になんとな~く計画された
親を引きとったら自宅で介助して入浴させるはずである作戦
は、このように見事に頓挫したのであります。
検証・・・・・将来、高齢になった親を引き取ることを前提に、
入浴介助ができる浴室を作っておく必要はあるのか?
結論・・・・・不要である
理由・・・・・高齢者にとって見ず知らずの新しい環境に慣れることはかなりの労力を要する。
特に認知症の場合はプライドが邪魔をして子による介助を拒否する場合が多い。
対策・・・・・将来、親を引き取るつもりであるなら、認知症を発症する前に同居を始めるか、
定期的に来訪してもらって、器具類や生活に慣れてもらうことが必要。
家族が介助して入浴させる事はかなり困難と考えた方がよい。
特に認知症がある場合は、ディ・サービスや訪問入浴介助の利用が望ましい。
最後まで自立して入浴ができる可能性もあるので、そのための対策は必要。
大きさ~1坪タイプで充分である(1.6m×1.6m)
手すり~入り口から洗い場までの歩行用補助手すり
浴槽に出入りする時に体を支えるための手すり
浴槽内で入浴姿勢を安定させるための手すり
床 ~滑りにくく冷たさを感じにくい素材がよい。タイルは避ける。
浴槽 ~症状によって35cm~45cmくらいまで使いやすい高さは異なるが、
とりあえず床からの立ち上がりは汎用タイプの高さである40cmに。
最低限これだけのことをしておけば、かなりの場合に対応できるでしょう。広さにしても1坪タイプなら、狭いながらも辛うじて介護者が一緒に入れる広さでもあります。自立して最後まで自宅で入浴をするための浴室については次回に詳しく書きます。いずれにせよ、どのような場合も、脱衣所と浴室の暖房・保温は必要ですよ。
これは親子折戸です。よくある汎用タイプの浴室用折戸に、必要なときには開く事ができる子扉が付いています。3枚引き戸と同じように広い開口部をつくることが可能です。ご高齢の御婦人の自宅に取り付けましたが、こちらも一度も子扉が開かれることはありませんでした。
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